頭痛
頭痛の大別
頭痛には 脳に病変がない一次性頭痛(機能性)と、何らかの病変によりおこる二次性頭痛がある。
一次性頭痛
二次性頭痛
頭部外傷(硬膜下血種)、頭頚部血管障害(くも膜下出血、脳出血、脳梗塞、巨細胞性動脈炎)、非血管性頭蓋内疾患(脳腫瘍)、薬剤(テオフィリン製剤、ニフェジピン、ニトログリセリン等)、感染症(髄膜炎、脳膿瘍、全身感染症)、ホメオスタシス障害(高血圧脳症、甲状腺機能低下症等)、耳鼻科疾患(副鼻腔炎等)眼科(緑内障等)があります。
診断
生命予後に関する二次性頭痛を見逃さないことが重要
見逃してはならない二次性頭痛としてはくも膜下出血、下垂体血管障害、髄膜炎、脳炎、頭蓋内圧亢進症、脳浮腫、脳出血、巨細胞性動脈炎、緑内障、脳腫瘍、内頚動脈・椎骨動脈解離、静脈洞血栓症、低血糖、高血圧クリーゼ等がある。
危険な症状
- 突然の頭痛
- 人生の中で最大の痛み
- 時間で増悪してくる
- 神経症状が伴う頭痛(意識障害、けいれん視力障害)
- 発熱を伴う頭痛
- 後部硬直を伴う頭痛
- 発疹を伴う頭痛
- 中年以上の初発の頭痛
- 鎮痛剤(NSAIDs)の効果が弱い頭痛
- 側頭動脈の圧痛がある頭痛
- 外傷後頭痛
鑑別
頭痛の診断:以下の6項目に注意する。その他、既往歴・家族歴の問診も重要。
1. 起こり方 | 突然発症 | くも膜下出血、脳出血 |
---|---|---|
慢性的な頭痛 | 緊張型頭痛、脳腫瘍 | |
発作性(約30%に閃輝暗点などの前兆あり | 片頭痛 | |
2. 部位 | 片側性で常に同側 | 群発頭痛 |
片側または両側性 | 片頭痛 | |
一定部位 | 三叉神経痛 | |
3. 性状 | 経験したことのない激しい頭痛 | くも膜下出血 |
拍動性 | 片頭痛 | |
締め付け感・頭重感 | 緊張型頭痛 | |
目の奥の突き刺さるような痛み | 群発頭痛 | |
4. 持続、頻度、出現時間 | 早朝起床時に多く数日から数ヶ月にわたって徐々に増悪 | 脳腫瘍 |
持続性で夕方に痛みが強い | 緊張型頭痛 | |
反復性で4~72時間持続 | 片頭痛 | |
群発期に反復 | 群発頭痛 | |
5. 随伴症状 | 悪心・嘔吐 | 片頭痛、髄膜炎、緑内障 くも膜下出血 |
光過敏(差明)、音過敏 | 片頭痛 | |
頭痛側の流涙や鼻閉 | 群発頭痛 | |
発熱 | 髄膜炎、側頭動脈炎 | |
髄膜刺激症状 | くも膜下出血、髄膜炎、脳腫瘍 | |
局所神経症状 | 脳腫瘍 | |
うっ血乳頭 | 脳腫瘍 | |
6. 増悪因子 | 体動 | 脳腫瘍、髄膜炎、片頭痛 |
トイレでいきんだ時など | 脳腫瘍 |
- 拍動性の有無、随伴症状の有無が重要 拍動性頭痛の主たるものは片頭痛と巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎:高齢、側頭動脈の怒張、炎症反応あり)の二つ
- 明け方に頭痛で目が覚める場合は群発性頭痛・脳腫瘍や睡眠時無呼吸性頭痛の可能性がある。
- 頭を揺らして頭痛が増悪するならば片頭痛か脳腫瘍を考える
片頭痛
- 概念
- 10代から30代に発症し発作性で繰り返し 片側に強く拍動性(ズキンズキン)とした頭痛。
- 疫学
- 若年から壮年の女性に多く40%程度に家族歴がある。
- 臨床像
- 頭痛のために動けず机の上にうずくまるか、ベッド上にあり日常生活が続けられない。
緊張性頭痛と合併症例も多い。
片頭痛の辛さを把握している。
視覚症状(閃輝暗点、視覚消失)、間隔症状(片麻痺)、失語などがみられることがある。
(片頭痛の約30%)で前兆終了後5分以上60分以内に頭痛が出現する。
頭痛は数時間から3日くらい続く、発作は月に1回から2回程度
片側性、拍動性頭痛、日常動作で増悪する。
随伴症状としては悪心嘔吐、光や音過敏、匂い過敏、回転性めまいなどがある。
加齢とともに頻度減少し60歳くらいで発作は生じなくなる
月経や排卵に関連していることが多い
増悪因子としては緊張、疲れ、睡眠不足、天候、温度差、空腹、アルコール、チーズ、チヨコレート
柑橘系、ナッツなどがある
複視・構音障害・片麻痺などを伴うこともあるので中枢性疾患との区別に注意する
※閃輝暗点とは視野の中心が見えにくくなりその周囲にキラキラ輝くギザギザした模様が見え次第に視野全体にひろがっていく状態 - 診断
- 片頭痛診断スコア―「POUND」
拍動性
持続時間が4時間から72時間
片側性
嘔気嘔吐
動くことができず日常生活が中断
(上記4個以上で片頭痛の可能性が高い、2個以下では可能性が低い) - 治療
- トリプタン、NSAIDsだが効かない事が多い。服用のタイミングや種類を変更すると効果は変わる。
- 予防薬
- 抗てんかん薬、カルシュウム拮抗薬、β―ブロッカー、抗うつ薬
緊張性頭痛
- 概念
- 後頭部、前頭部、頭部全体、両こめかみ、後頭下などさまざま。
圧迫感、締め付けられるような頭痛、頭重感であり姿勢が原因 - 疫学
- 中年以降に多い
- 臨床像
- 頭を締め付けるような持続性の頭痛や頭重感が数十分感から数日間続く、痛みは夕方にひどくなる。
基本悪心嘔吐はないが伴うこともある、光音過敏もない(脳腫瘍の頭痛は朝方に多い)
頸部や肩・背部の筋肉は硬く張っている - 診断
- 慢性反復性の頭痛で上記の症状があり神経学的所見がなければ緊張性頭痛と診断する。
- 治療
- NSAIDs等、休息や筋肉トレーニングも重要
群発性頭痛
- 概念
- 片側の眼窩部や側頭部がえぐられるような激痛発作を生じる頭痛
- 疫学
- 20~40代の男性に多い
- 臨床像
- 片側の眼窩部や側頭部がえぐられるような激痛発作が1時間程続く(痛みは深夜におこることが多い)
1日1~3回の頻発する痛みが1~2か月間にまとまっておこる
疼痛側に流涙、結膜充血、鼻閉、鼻水などの副交感神経症状を認める(Horuner症状)
国際頭痛学会による一次性頭痛の分類
非感染症 | 非感染症 | 群発頭痛 | |
---|---|---|---|
有病率 | 8.4% | 22% | 0.01~0.1% |
好発年齢 | 20~40歳代 | 30歳以上 | 20~40歳代 |
性差(男:女) | 1:4(女性に多い) | 2:3 | 5:1(男性に多い) |
部位 | 片側~両側 前・側頭部 |
両側 後頭部~頭蓋周囲 |
|
主な発症様式 | 前駆症状、前兆(閃輝暗点など)が30%にみられる | 1日中痛みがあり、ダラダラと続く | 決まった時間帯(特に夜間睡眠中が多い)に突然発症する |
痛みの性状 | 拍動性(脈拍に一致) | 圧迫、締め付け感、頭重感 | 突発的でさしこまれるような激痛、えぐられる、突き刺さる |
発作の頻度 | 1ヵ月に1~2回 | 年に数回~毎日 | 1年に約1回~数回の群発期(1~2ヵ月続く) |
発作の持続時間 | 4~72時間 | 1日中のようにダラダラ | 1~2時間(深夜に多い) |
痛みの強さと頻度 | 日常生活に支障をきたす | 日常生活に大きな支障はない | 痛みのためにのたうち回る |
誘因 | ・飲酒、ストレス ・月経周期 ・光、音、臭い ・天候、温度の変化 ・睡眠不足、過多 ・首、肩の凝り(片頭痛の方が顕著) |
・うつむき姿勢 | ・飲酒 ・ヒスタミン ・ニトログリセリン |
軽快因子 | ・冷却、安静、過度な睡眠 | ・入浴、飲酒、運動 | |
増悪因子 | ・日常動作、運動 ・ストレス(特に解放時) ・入浴 ・飲酒、マッサージ |
・精神的、肉体的ストレス | ・飲酒 |
随伴症状 | ・悪心、嘔吐 → 寝込む ・光、音、臭過敏 |
・頭痛側の自律神経症状(流涙、鼻漏、Homer症候群など) |
パーキンソン病
パーキンソン病とは
黒質緻密層ドパミン神経細胞の変性による線条体のドパミン不足が病因と考えられ、錐体外路症状を主徴とした進行性変性疾患。
病態
線条体(被殻,尾状核)の働きを調節している黒質に変性が起こり、ドパミンが減少すると、線条体は淡蒼球内節を抑制できなくなる
➡ このため淡蒼球内節が必要以上に運動に抑制をかけてしまい、スムーズな運動が困難となる。
※ 運動症状とともに自律神経症状や精神症状といった非運動症状も呈する。
神経変性疾患の中ではAlzheimer病に次いで頻度が高い。
黒質、青斑核(進行期)などの神経メラニン含有細胞の脱落
残存神経細胞にLewy小体の出現
- 1錐体外路症状(パーキンソニズム)
- a. 静止時振戦(resting tremor):手のふるえ(暗算などの精神的負荷で増強)
※ 振戦や筋強剛は通常一側から非対称性に発症し、加齢に伴い進行する。片側上肢➡同側の下肢➡反対側上肢➡下肢とN字型(または逆N字型)の進行が多い。初期から両側性に発症しないことが他のParkinson症候群との鑑別に役立つことがある。
※ 本症は静止時振戦を認めることが特徴的である。(他のParkinson症候群では静止時振戦はみられにくいため、鑑別に役立つ)
※ 接戦は、姿勢時にも起こりやすい - b. 無動(動作緩慢:akinesia,bradykinesia):すくみ足(歩行開始時、すぐに歩き出せない、狭いところや方向転換の際、急に立ち止まる)、すり足歩行、小刻み歩行、加速歩行(突進歩行)、方向転換の困難、仮面様顔貌、瞬目が少ない、小字症、構音障害など
- c. 筋強剛(個縮:rigidity):歯車様固縮,鉛管様固縮
- d. 姿勢反射障害:前傾・前屈姿勢,引くと倒れやすい
- 2 自律神経障害(慢性便秘,頻脈,排尿障害,起立性低血圧,脂漏性皮膚など)
- 特に便秘が多く、初診時に40%、数年経過すると約90%にみられる
- 3精神症状
- うつ症状(約40%),認知症(30%),不安などがみられる
■ Hoehn-Yahr重症度分類
0 :パーキンソニズムなし
1 :一側性パーキンソニズム
1.5 :一側性パーキンソニズム+体幹障害(neck rigidityなど)
2 :両側性パーキンソニズムだが姿勢反射障害なし
2.5 :軽度両側性パーキンソニズム+後方突進があるが自分で立ち直れる
3 :軽~中等度パーキンソニズム+姿勢反射障害,肉体的には介助不要
4 :高度のパーキンソニズム,歩行は介助なしでなんとか可能
5 :介助なしでは,車椅子またはベッドに寝たきり(介助でも歩行は困難)
※ 3以上は指定難病に認定
姿勢反射障害=転倒し易いこと
≪CT≫ 特異的な所見なし
① 静止時振戦
② 運動症状の左右差
③ 心筋へのMIBG集積低下
治療の中心はドパミン補充療法
- 1薬物療法
- ○ドパミン前駆物質:L-dopa(レボドパ),L-dopa合剤
≪作用≫中枢でドパミンに変換ざれ、作用する=(ドパミンのままではBBBを通過できない)パーキンソニズムに対し最も有効。
※ドパ脱炭素酵素阻害薬(カルビドパまたはベンセラジド)を併用する方がよい。(L-dopaが脳内に移行する前に末梢で代謝されるのを防ぐため)。
※ L-dopaとドパ脱炭素酵素阻害薬の合剤が頻用されている。
※悪性症候群を生じるため、突然の服用中止は禁忌
※閉塞隅角緑内障には禁忌
※幻覚や妄想に対しては、L-dopa以外の薬剤を減量・中止する。➡ 改善しない場合はL-dopaを漸減する。 - ○ドパミンアゴニスト
L-dopaより効果は弱いがwearing off現象を起こしにくい
早期Parkinson病に対する治療では
L-dopaは最も強力だが長期服用ではwearing offなどの運動合併症が生じやすい。
➡ 初期治療は次のようにドパミンアゴニストとL-dopaを使い分ける。 - ○非高齢者(認知機能障害がない・精神症状がない)➡ ドパミンアゴニストを使用
※ 効果不十分の場合、L-dopaと併用 - ○高齢者または認知機能障害がある・精神症状がある➡ L-dopaを使用
※ 効果不十分の場合、L-dopa増量またはドパミンアゴニストを併用
※ 症状が重い、転倒のリズクが高い等、もしくは仕事上必要な場合にはL-dopaを使用 - a. その他
① 抗コリン薬
薬剤性Parkinson症候群や軽症のPatkinson病に使用する
② ドパミン遊離促進薬:アマンタジン
・線条体のドパミン神経に作用しドパミン放出を促進する。速効性があり、筋強剛、無動・寡動、姿勢反射障害には有効だが振戦への効果には乏しい。
③ モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO‐B阻害薬):セレギリン
・細胞内でドパミンを代謝するMAO‐Bを抑制 ➡ L-dopaと併用し作用を高める。
・wearing offをきたしている患者のoff時間を短縮する。
④ COMT阻害薬:エンタカポン(L-dopaと併用)
・末梢でL-dopaを代謝するCOMTを抑制し、脳内に移行するL-dopaを増やす
・wearing off現象を起こしにくくする
⑤ L-dopa賦活薬:ゾニサミド(L-dopaと併用)➡振戦、wearing offに有効
⑥ ノルアドレナリン前駆物質(ドロキシドパ):充分量のL-dopaと併用
・他の薬剤によってもすくみ足や無動か改善されない場合に併用する
※ 安静時振戦にβ-blocker(アルマールⓇ,インデラルⓇ)を用いる場合もある
⑦ アデノシンA2A受容体桔抗薬:イストラデフィリン
➡ wearing off、非運動症状の改善に有効 - 2 脳深部刺激療法
- 視床下核や淡蒼球に深部電極を植えこみ、高頻度で連続的に刺激することで神経細胞が興奮できないようにする
≪適応≫wearing offが強く薬物療法で改善しない例,副作用が強い例など
※ 薬剤の減量にも効果的
※ 薬物療法で改善されない振戦に対しては、視床腹中間核のDBSも有効である。 - 3 非薬物療法
- 視覚刺激(床の横線,階段など)や聴覚刺激(リズムに合わせる)がすくみ足に有効である。
適切な治療を行えば、通常発症後10年程度は普通の生活が可能である。それ以後は個人差があり介助が必要になることもあるが、生命予後は決して悪くない
認知症
認知症とは
定義)
後天的要因(脳疾患,全身疾患,その他の外的要因)が原因で、社会生活が困難なレベルにまで多領域の認知機能が障害された状態
疫学年齢: 65歳以上の約15%,85歳以上では4割以上を占める
原因)
神経変性疾患 | Alzheimer病(認知症の約60%を占める),Lewy小体型認知症(認知症の約20%を占める),前頭側頭型認知症(認知症の2%をしめる)、進行性核上性麻痺Parkinson病,Huntington病 |
---|---|
脳血管障害 | 脳血管性認知症(認知症の20~30%を占める) |
外傷 | 慢性硬膜下血腫,頭部外傷後遺症 |
感染 | Creutzfeld-Jakob病,亜急性硬化性全脳炎,進行性多巣性白質脳症脳炎・髄膜炎,HIV脳症(AID脳症),神経梅毒(進行麻痺) |
腫瘍 | 脳腫瘍 |
内分泌・代謝・栄養疾患 | 甲状腺機能低下症,副甲状腺機能亢進症,副甲状腺機能低下症,反復性低血糖, Cushing症候群,副腎皮質機能低下症,下垂体機能低下症,リビドーシス,肝不全,腎不全,Wilson病,ペラグラ、ビタミンB欠乏症 |
薬剤性認知症 | 抗てんかん薬、抗パーキンソン薬、精神病薬、消化管潰瘍治療薬、抗悪性腫瘍薬、ステロイド鎮痛薬、ジキタリス製剤、経口糖尿病薬、βーブロッカー、インスリン |
その他 | Wernicke脳症,アルコール脳症,正常圧水痘症 ※下線 は治療可能な認知症 |
症状)
大きく中核症状とBPSD (行動・心理症状)の2つに分けられる。
- 中核症状:脳の障害により直接起こる症状、認知症患者に必ずみられる記憶障害,見当識障害,失語,失行,失認,遂行機能障害など
周辺症状(BPSD :行動・心理症状):中核症状に付随して引き起こされる症状
不眠,徘徊,幻覚,妄想,うつ状態,不安・焦燥,興奮・暴力,不潔行為,異食・過食,依存など
鑑別)
「加齢による物忘れ」と「認知症の鑑別」
加齢によるもの忘れ(正常) | 認知症 | |
---|---|---|
忘れ方 | 体験したことの一部を忘れる (例:食事で何を食べたか忘れる) | 体験したことの全体を忘れる (例:食事をしたこと自体を忘れる) |
自覚 | もの忘れをしている自覚がある (思い出そうとする) | もの忘れをしている自覚がない |
日常生活 | 支障は無い | 支障がある |
進行 | 悪化は見られない | 悪化していく |
その他の症状 | なし |
|
「うつ病」と「認知症」の鑑別
認知症 | 偽性認知症(うつ病性) | |
---|---|---|
初発症状 | 知能低下が抑うつ症状より先 | 抑うつ症状が知能低下より先 |
症状の訴え方 |
|
知能低下について過大に訴える (自殺のリスクが大) |
外見・行動 |
|
意欲の低下 心配の症状 動きは少なくイライラしている |
質問への応答 | 質問をはぐらかす,怒ったり嫌味を言ったりする | 返答が遅く「わかりません」のような答え方をする |
知的作業能力 | 通常、全般的に一貫して障害されている | しばしば記憶障害のみに限られ、一貫性を欠く |
認知症の原因の多くを占める疾患の鑑別
代表的な認知症とその鑑別
認知症 | 変性性認知症 | 脳血管性認知症 | ||
---|---|---|---|---|
Alzheimer病 | Lewy小体型認知症 | 前頭側頭型認知症(Pick病を含む) | ||
主な障害部位 |
|
後頭葉 |
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様々な部位に起こる(前頭葉の障害が多い) |
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人格変化 | 晩期に崩壊 | 晩期に崩壊 | 早期に崩壊 | 保たれる |
病識 | なし(初期にはあり) | なし(初期にはあり) | なし | あり |
経過 | 緩徐,常に進行する | 段階的に進行する | ||
基礎疾患 | 特になし | 高血圧,糖尿病,心疾患 | ||
男女比 | 女性に多い | 男性に多い | 特になし | 男性に多い |
CT/MRI 所見 | 海馬の萎縮 ⇒大脳の全般的萎縮 | 海馬の萎縮は比較的軽度 | 前頭葉と側頭葉の萎縮 | 脳実質内に脳梗塞巣 |
PET/SPECT 所見 | 側頭葉,頭頂葉の血流代謝低下 | 後頭葉の血流,代謝低下 | 前頭葉,側頭葉の血流,代謝低下 | 梗塞部位に応じた血流,代謝低下 |
病理所見 | 神経原線維変化老人斑 | Lewy小体 | Pick 球(Pick 病) | 梗塞巣など |
蓄積蛋白 | Aβ(アミロイドβ) タウ蛋白 | α-シヌクレイン | タウ蛋白 TDP-43 - | - |
アルツハイマー病について
認知症の多くの原因をしめる疾患で 神経変性(パーキンソン)、耐糖能異常(糖尿病)、血管性等の原因により発症する原因不明の疾患
アルツハイマーの検査
≪CT・MRI≫
大脳皮質の萎縮 ※ 初期はほぼ正常
側頭葉*海馬の萎縮は早期より出現(Sylvius裂,側脳室下角の拡大)。
脳血管性病変,腫瘍,水頭症などの他の脳疾患の除外診断に有用である
≪SPECT・PET≫
初期より側頭葉,頭頂葉,後部帯状回などの血流.代謝が低下
アルツハイマー型認知症の治療
一般名 | 商品名 | 投与 | 適応 | |
---|---|---|---|---|
コリンエステラーゼ阻害薬 | ドネベジル | アリセプト® | 経口 | 軽度~中等度(5mg/日) ないし重度(10mg/日) |
ガランタミン | レミニール® | 経口 | 軽度~中等度 | |
リバスチグミン | イクセロンバッチ® | 貼付 | 軽度~中等度 | |
リバスタッチパッチ® | ||||
NMDA受容体拮抗薬 | メマンチン | メマリー® | 経口 | 中等度~重度 |
アルツハイマー型認知症の経過
臨床診断(ステージ) | 臨床的特徴 | 軽度認知障害(MCI) |
|
---|---|
軽度Alzheimer病 |
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中度Alzheimer病 |
|
高度Alzheimer病 |
|
脳血管性認知症について
- 〔概念〕
- 脳血管障害によって生じる認知症
- 〔病状〕
認知症状の他、病変部位による局在症状を伴うことが多い。
脳卒中発作に伴い急激に発症したり,新しぃ梗塞が加わる度に段暗的悪化を示す。
初期には一部の機能は侵されるが,残りの機能は侵されない(まだら認知症)。
- 同じ認知症でもアルツハイマー病とは内容が異なり,抑うつ,自発性低下,情 動失禁,夜間興奮,パーキンソニズ厶による歩行障害(小刻み歩行)、尿失禁, 運動麻痺などが出現し,症状は変動しやすい
- 歩行障害と尿失禁が早期から出現する点がADとの鑑別に有用
- 〔検査〕
-
- ≪CT・ MRI≫ 脳実質内に梗塞病変が少数~多発してみられる。
- ≪PET・SPECT≫ 梗塞部位および周辺の血流,代謝低下
- 〔診断〕
-
- 認知症がある
- 脳血管障害がある
- 両者に因果関係がある
の3点がポイント。
- 〔治療〕
高血圧の管理が最も重要
- 血圧管理
- 抗血小板療法:アテローム血栓性脳梗塞の予防
- 抗凝固療法:心房細動による血栓形成の予防
- 糖尿病、脂質異常症(高脂血症)の治療、禁煙など
Lewy小体認知症について
- 〔概念〕
- Lewy小体が広範な大脳皮質領域で出現することによって進行性認知症とパーキンソニズムを呈する病態
- 〔症状〕
-
- 進行性認知機能障害に加え下記の症状がみられる。
- 認知機能の変動,動揺(日内あるいは数週~数ヶ月に及ぶ変動),反復する幻視(人,小動物,虫など),パ一キンソニズ厶などが特徴である精神症状,レム睡眠行動障害,起立性低血圧などの自律神経障害,杭精神病薬に対する過敏性など
- 〔検査〕
-
- ≪CT・MRI≫ 正常、または海馬の萎縮(ADに比べ軽度)
- ≪SPECT・PET≫ 大脳皮質領域(特に後頭葉皮質)における血流,代謝低下
- ≪MIBG心筋シンチグラフィ≫ 心臓交感神経の脱神経所見(Parkinson病と同じ所見)
- 〔治療〕
-
根本的治療法はなく、対症療法が中心となる。
- 進行性認知症,精神症状:コリンエステラーゼ阻害薬(ドネぺジルなど)
- パーキンソニズム:ドパミン前駆物質(レポドパ)
- 〔予後〕
- ADと比較して認知症が、パーキンソン病と比較して運動障害, 自律神経障害が早く進行し、発症後10年未満で死に至ることが多い
前頭側頭型認知症(Pick病など)について
- 〔概念〕
- 前頭葉や側頭葉などに病変の首座をおく認知症の総称、特徴的な人格変化や行動異常がみられる
- 〔症状〕
-
- 自己中心的な人格変化と反社会的行動が特徴、病識欠如のため受診が容易でない。
- 初期~中期:記憶や日常生活動作の障害は目立たない。
- 感情変化:無表情、感覚鈍麻,多幸的など
- 脱抑制:万引き,信号無視、診察室などからの立ち去り行動、性的脱抑制など
- 常同行動:同じところを周回,同じ物を食べ続ける,時刻表的生活反響言語(相手の言葉をオウム返し),反復言語(同じフレーズを繰り返す),渋続言語(何を聞かれても内容に関係無く同じフレーズで返答)
- 自発性低下:考え無精,無関心,当意即答(よく考えずに思いつきで即座に答える)
- その他:模倣行為,落ち着きのなさ,ある行為を継続できない,喚語困難,失名辞(言葉が出ない,ものの名前が言えない),食欲増加,早食いなど
- 末期:無言・無動,全般的な認知機能障害⇒寝たきり
- 〔検査〕
-
- ≪CT・ MRI≫ 前頭葉,側頭葉の萎縮
- ≪SPECT・PET≫ 前頭葉,側頭葉の血流および代謝の低下
- 〔治療〕
- 特異的な治療方法はなく、対症療法が中心
- 〔予後〕
- 全経過2~15年(平均6年)で、感染症などにより死亡
☆本症はAlzheimer*病と異なり記憶・道具的機能・視空間能力・日常生活動作の障害は目立たない。このため長谷川式では認知症から外れてしまうことがあり注意する。
認知症とは一つの病気ではなくいろいろな病気により引き起こされる疾患です。似たような症状をしめしますが詳細は違います。そのため治療も異なります。
認知症の治療に重要なことは、まずはどういう原因の認知症かを診断しなくてはなりません。そのうえで疾患毎の治療に移行することが重要です。
うつ病(うつ病における投薬治療)
抗うつ薬の種類と特徴
三環系抗うつ薬
効果は強いが副作用(抗コリン作用)が多い
四環系抗うつ薬
三環系をマイルドにしたもの、しかし抗うつ作用は三環系に比較して落ちる
SSRI
安全性が高く第一選択薬として用いられているが、その効果は三環系抗うつ薬を上回らず、重症例には適さない。
鎮静効果がない。強迫性症、社交不安症、パニック症、過食症で有効
○デプロメール錠(25・50・75) 1回25mg 1日2回(朝・夕後)から開始 最大150mg。うつ病治療の第一選択薬 副作用も少ない うつ病に加え 強迫性障害や社会不安症にも適応 セロトニン作動薬や抗てんかん薬やテオフィリン製剤との併用注意
○ジェイゾロフト(25・50)1回25mg 1日1回から開始して 最大100mg
うつ病、パニック障害に適応
慎重投与:肝機能障害・そう病・自殺企図・けいれん既往・出血傾向・高齢者・小児。ねむけが強い。 自殺企図患者には注意
○レクサプロ錠(10)1回10mg 1日1回夕食後から開始して最大20mg
典型的うつ病治療薬 悪心・傾眠・頭痛・嘔吐・口渇・めまい・下痢などの副作用あり 中止時の離脱症状は少ない
○パキシルCR(12.5・25)1回12.5mgから開始 1日1回夕食後から開始して最大50mg
副作用の発現がしにくい。18歳未満では禁忌 効果発現には2~4週間 増量で不安感やイライラ 不眠などあり エフピーとの併用は禁忌
SNRI
SSRIの効果に、意欲向上が加わりより広い治療領域を示すが、これもSSRI同様鎮静効果はない。
サインバルタカプセル(20・30) 1回20mg朝食後 1日1回から開始し 最大60mg
うつ病に加え 糖尿病性神経障害、腹圧性尿失禁 不安障害
副作用は消化器症状 1週間以内が多い
その他にトレドミン等がある
NASSA
四環系抗うつ薬で、立ち上がりが早くSSRI、SNRIで問題のある胃腸障害や性機能障害が少ないが体重増加、眠気、めまいに注意
○リフレックス(15)1日1回就寝前・・・SSRI、SNRIで問題のある胃腸障害や性機能障害が少ないが体重増加、眠気、めまいに注意
抗うつ薬の副作用と注意
*SSRIやSNRIは消化管系副作用(悪心・嘔吐・下痢)が多く、可能ならばガスモチン(5) 1日3錠分3(胃腸改善薬)を処方しておく。
*SSRIではノルアドレナリン受容体を刺激するので尿閉、頭痛、頻脈、血圧上昇などがみられる
*パキシルやデプロメールの投与を急にやめると中断症状(めまい、四肢の異常感、不眠)がみられるために漸減する。
*パキシル、ジョイフロストは性腺機能障害が生じやすく、必要性があればリフレックスなどを検討する。
*抗うつ薬の投与初期にアクチベーション症候群とよばれる不安、焦燥、易刺激性、衝動性などが発症することがあるので 躁うつ病、パーソナリティー障害等の患者には注意する、必要に応じてベンゾジアゼピン系抗不安薬の併用や屯用が望ましい。
*セロトニン症候群は脳内のセロトニン過剰によるもので不安、焦燥、ミオクローヌス等がみられる。
減量や保存療法で対応可能であるが、重症例ではペリアクチン(抗アレルギー薬)(4)3錠分3やβ―ブロッカーが用いられる。
【抗うつ薬の副作用による比較】
抗コリン作用 | 胃腸症状 | 鎮静 | 不眠・焦燥 | 性機能障害 | 起立性低血圧 | 体重増加 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
三環系 | トリプタノール | +++ | - | +++ | - | + | +++ | +++ |
トフラニール | ++ | - | + | ++ | + | ++ | ++ | |
アナフラニール | +++ | + | + | + | ++ | ++ | ++ | |
レスリン | + | - | + | + | + | + | + | |
アモキサン | +++ | - | ++ | ++ | + | + | + | |
四環系 | ルジオミール | ++ | - | ++ | - | + | ++ | ++ |
テトラミド | + | - | ++ | - | - | + | + | |
その他 | レスリン、テジレル | - | + | ++ | - | - | + | + |
SSRI | ルボックス、デプロメール | - | + | ++ | - | - | + | + |
パキシル | + | ++ | - | ++ | ++ | - | + | |
ジェイゾロフト | - | + | ++ | - | - | + | - | |
レクサプロ | - | ++ | - | ++ | ++ | - | - | |
SNRI | トレドミン | - | ++ | - | ++ | ++ | - | - |
サインバルタ | - | - | ++ | - | - | + | ++ | |
NaSSA | リフレックス、レメロン | - | - | ++ | - | - | + | ++ |
分類 | 商品名 | 主な作用 | 副作用 | |||
ノルアドレナリン | セロトニン | 抗コリン | 抗α1 | 抗ヒスタミン | ||
覚醒・注意 | 抑制・安心 | 口渇・便秘・尿閉 | 眠気・立ちくらみ | 眠気・体重増加 | ||
三環系 | トフラニール | ++ | ++ | ++++ | ++ | ++++ |
トリプタノール | + | +++ | +++++ | +++ | +++++ | |
アナフラニール | ++ | +++++ | ++++ | ++ | ++++ | |
ノリトレン | +++ | ++ | +++ | + | +++ | |
アモキサン | ++++ | ++ | ++ | + | ++ | |
SSRI | デプロメール | - | ++++ | - | ± | ++ |
パキシル | ++ | +++++ | + | - | ++ | |
ジェイゾロフト | + | +++++ | - | ++ | ++ | |
SNRI | トレドミン | +++ | ++++ | ± | - | ± |
サインバルタ | +++++ | +++++ | ± | - | ± | |
NaSSA | レメロン リフレックス |
* | ±~+ | ± | +++++ |
* NaSSAはシナプス前部の自己受容体α2のα2受容体によりノルアドレナリンとセロトニンの放出を促進する
代表的な抗不安薬の種類とその力価(SSRI)
種類 | 薬剤 | 力価 |
---|---|---|
SSRI | Fluvoxamine(ルボックス®) | 150 |
Paroxetine(パキシル®) | 40 | |
Paroxetine CR(パキシルCR®) | 50 | |
Sertraline(ジェイゾロフト®) | 100 | |
Escitalopram(レクサプロ®) | 20 | |
SNRI | Milnacipran(トレドミン®) | 100 |
Duloxetine(サインバルタ®) | 30 | |
Venlafaxine(イフェクサーSR®) | 150 |
抗うつ薬の副作用とその対応
原因 | 対策 | 変更薬 | ||
---|---|---|---|---|
三環系抗うつ薬 | 口渇 | 抗コリン作用 | うがい、白虎加人参湯やエチルシステイン(チスタニン)の追加投与 | SSRI、SNRI |
便秘 | 抗コリン作用 | 運動、水分摂取、緩下剤の追加投与 | SSRI | |
尿閉 | 抗コリン作用 | コリン作動薬(ジスチグミン)追加投与 | SSRI、NaSSA | |
起立性低血圧 | 抗α1作用 | 減量、ミドドリン(メトリジン)追加投与 | SSRI、SNRI、NASSA | |
催眠・鎮静作用 | 抗α1作用、抗H1作用 | 減量、1日1回投与、 | SSRI、SNRI | |
体重増加 | 抗H1作用 | SSRI | ||
QT延長 | 抗コリン作用、抗α1作用、キニジン様作用 | 減量 | SSRI、ミルタザピン | |
SSRI | 悪心・嘔吐 | 5-HT3受容体刺激 | モサブリド(ガスモチン)追加投与 | NaSSA |
性機能障害 | 5-HT3受容体刺激 | NaSSA、トラゾドン、ミアンセリン | ||
下痢 | 5-HT3受容体刺激 | トリメプチン(セレキノン)追加投与 | ||
SNRI | 尿閉 | NAd受容体刺激 | α1遮断薬(ナフトビジル、タムスロシンなど)、コリン作動薬(ジスチグミン)追加投与 | |
頭痛 | NAd受容体刺激 | BZ系抗不安薬追加投与 | SSRI | |
頻脈、血圧上昇 | NAd受容体刺激 | SSRI | ||
NaSSA | 催眠作用 | 抗H1作用、5-HT2作用 | 減量 | SSRI、SNRI |
体重増加 | 抗H1作用 | SSRI、SNRI |
不眠症
定義
不眠障害とは適切な環境で眠ろうとしているのに寝つけなかったり、中途覚醒や早朝覚醒があったりして、日中の活動に支障がある状態である。
不眠障害の診断基準は、
- 1 入眠困難,睡眠維持困難,早朝覚醒のいずれか1つがあり、
- 2 日中の機能障害を呈し、
- 3 週に3夜以上みられ、
- 4 3か月以上持続する
というものである。
病態
ストレスのある出来事、環境変化、睡眠スケジュールの変化などをきっかけに生じる急性不眠は、数日から数週間持続して状況が改善すれば消失する。しかし、心理的な脆弱性をもつ人は状況が改善したあとも不眠が持続したり、軽微な出来事で再発することがある。
夜になると眠ろうと努力してかえって目がさえてしまう。昼寝をしようと思っても寝つけないことがある。元来几帳面で神経質な性格の人に生じやすい。
逆説性不眠症は睡眠状態誤認ともよばれ、客観的には寝ているのに、自覚的には全く眠れていないと感じ、日中の疲労感、作業能率低下、うつ状態などがみられる。時間認知に障害があると考えられている。
疫学
日本人の30%以上が不眠の症状を経験し、不眠障害はおよそ10%にみられる。高齢者では頻度が高く、男性よりも女性に多い。
診断
厚生労働省研究班の「健康づくりのための睡眠指針」には、日常生活指導が書かれており、これを参照して問診する。それは睡眠衛生指導にもつながる。
治療方針
- A A. 非薬物療法
1. 睡眠衛生指導
睡眠日誌をつけて、自分の睡眠を客観視するこどは重要である。2. 就寝前のリラックス法
就寝前に入浴したり、歯をみがいたり、何気なく行っている行為を就寝儀式という。このような就眠儀式を意図して順番に行うことが就寝の心理的準備となる。3. 認知行動療法
不眠へのこだわりが強い人は、無理に眠ろうとする態度を改める認知行動療法の適応となる。
必要以上に眠ろうとしてかえって不眠を悪化させていることが多。眠くなってからベッドに入る、途中で目が覚めて寝つけなかったらベッドから離れる、朝起きる特間は一定にするなどを指導する。
睡眠制限法は、睡眠日誌から自分の平均睡眠時間を割り出し、朝起きる時間を決めて、平均睡眠時間をさかのぼった時刻にベッドに入るようにする。刺激制御法は、寝ること以外でベッドを使わないようにすることで、15分以上たっても寝つけないときはベッドから離れる。
日中は眠くてもいつも通りの生活を心がける。- B 薬物療法
- 1. 入院困難
a. 寝つきが悪いがいったん寝ついてしまえば朝まで眠れると、入眠困難を訴える場合
作用時間の短い睡眠薬を用いる。通常は非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を用いる。耐性や依存が生じにくく、筋弛緩作用が少なく、虚弱者や高齢者にも使いやすい。
〔処方例〕
1) マイスリー錠(5mg) 1回1錠 1日1回 就寝直前
2) アモバン錠(7.5mg) 1回1錠 1日1回 就寝直前
3) ルネスタ錠(2㎎) 1回1錠 1日1回 就寝直前b. 不眠症状とともに強い不安を訴える場合ベンゾジアゼピン系睡眠薬を用いることがある。催眠作用とともに抗不安作用と筋弛緩作用があり、即効性があるため効果を実感しやすいが、長期服用や高用量服用では耐性や依存が生じる。常用量を長期服用して安定した睡眠が得られていても、服用をやめると反跳性不眠や退薬症候が生じ、常用量依存とよばれる。常用量依存があっても適切な指導による計画的な漸減で中止することは可能である。c. 夜更かしの朝寝坊といった睡眠リズムの問題を背景に、入院困難を訴える場合
メラトニン受容体作動薬を用いる。効果発現には時間を要し、夕食直後に服用すると効果の出現が不十分となる。1‐2週間続けて服用することで安定した睡眠が得られる。
〔処方例〕
ロゼレム錠(8mg) 1回1錠 1日1回 就寝1時間前d. 軽症の不眠障害例
「眠れないときに服用」と指示する睡眠薬の間欠的服用(頓用)が定期服用と同等の効果があるとのエビデンスがある。オレキシン受容体拮抗薬は人眠改善と睡眠維持作用があり、頓用として用いても有効である。
〔処方例〕
ベルソムラ錠(15mg) 1回1錠 1日1回 不眠時に頓用 - 2 中途覚醒・早朝覚醒
-
a. 寝つきはいいが夜中に目が覚めてしまう、あるいは朝早く目が覚めてしまうと、中途覚醒や早朝覚醒を訴える場合
中間作用型あるいは長時間作用型の睡眠薬を用いる。b. 入眠後の眠りが浅くすぐに目が覚めるといった熟眠障害を訴える場合
短時間作用型睡眠薬と長時間作用型睡眠薬を組み合わせるとより効果的であるといったエビデンスはない。このような患者は、しばしば抑うつ状態にあり、鎮静系抗うつ薬を用いることがあるc. 睡眠薬のやめ方
① 間睡眠が確保され、
② 日中の不調がなくなり、
③ 不眠に対する恐怖感が軽減され、
④ 適切な睡眠習慣が身につく、
といった4条件を満たしたら睡眠薬の中止を考える。バルビツール酸系睡眠薬や古典的な非バルビツール酸系睡眠薬を連用して・いる場合には、ベンゾジアゼピン系あるいは非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に置換してから、減薬・断薬を試みる、複数のベンゾジアゼピン系あるいは非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を併用している場合には作用時間の短い睡眠薬から減量・中止し、作用時間の長い薬物を最後に残す。作用時間の短い睡眠薬を高用量用いているときは、いったん作用時間の長い睡眠薬に置換することも考慮する。
睡眠薬を半年以上服用している例では、中止時に不眠、不安、動悸、知覚過敏などの退薬症候が生じることがあることを説明する。短時間作用型の睡眠薬では減量後すぐに現れ、そのまま様子をみていれば数日程度で治まる。一方、長時間作用型の睡眠薬であれば服用を中止して少し遅れて出現し、1週間程度持続することがある。